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例えば,羽曳野市の羽曳野警察署が捜査した次のような事件があるとします。「羽曳野市在住の少年A(18歳)は,代金を払うつもりがないのに,とおりすがりの飲食店Vで料理を注文して飲食しました。」
飲食後,V店の店主から飲食代金の支払いを請求された際に,AはV店の店主をおもいっきり突き飛ばして逃走しました。このような事例を考えてみましょう。
Aにはどのような犯罪が成立するのでしょうか?
(上記事例は,フィクションです。)
上記事例をもとに本件で成立する犯罪について簡単に検討してみたいと思います。
1.詐欺罪について
本件では,まず,飲食を注文して飲食したことについて詐欺罪の成立が問題となります。
詐欺罪は物をだまし取る場合(1項詐欺罪)と利益(サービスなど)をだまし取る2項詐欺罪があります。
詐欺罪の成立には5つのステップをクリアしなくてはなりません。
具体的には,
本件では,まず,1の欺く行為があります。これは,支払い意思がないことを黙っていることは注文行為と一体となって積極的に相手をだましていると評価できるからです。そして,それにより,V店店主はお金を払ってくれると思い食事を提供しているので,2~5のステップもみたします。
よって,詐欺罪(1項詐欺罪)が成立します。
2.強盗利得罪(2項強盗罪)について
次に,強盗罪が問題となります。
強盗罪とは物を奪うためや債権追及を免れるために,相手に対し犯行抑圧に足る暴行を加え,物をうばったり(1項強盗罪)債権追及をまぬがれたり(2項強盗罪)することです。
本件では,相手を思いっきり突き飛ばす暴行を加えて飲食代金という債権をまぬがれているので2項強盗罪(強盗利得罪)が問題となります。
そして,本件についてみると,相手に暴行を加えて飲食代金の請求することを不可能または著しく困難にしています。よって,強盗利得罪(2項強盗罪)が成立します。
3.罪数処理について
では,Aさんには詐欺罪と強盗罪が成立するとして,両者の関係はどうなるのでしょうか?
つまり,罪数処理をどのように考えるべきかが最後に問題となります。
1つの考え方として,だまして飲食することと,殴って飲食代金を免れることは同一機会に行われるとともに,その被害法益も食事と食事代金という同一のものだから,包括して強盗利得罪(2項強盗罪)1罪が成立するというものがあります。この見解によると,Aには強盗利得罪1罪が成立することとなります。
以上より,A少年には強盗利得罪が成立することとなります。
羽曳野市在住のAさんが,入店した当初はお金があると思っていたけど,食事が終わって財布をみてみるとお金が入っていませんでした。
そこで,Aさんは店主に「どうしても外で人を待たせている人がおり,その人と仕事の話を少しだけしなければならないので,ちょっと外に出ていきます。」と言いました。
これに対して店主は「わかりました」と答えたところ,Aさんはそのままとんずらしてしまいました。
このような場合,Aさんにはどのような犯罪が成立するのでしょうか?」
1.注文行為について
この事例の場合は冒頭の事例と異なり,注文行為をする時点ではそもそも支払いをするつもりであり,食事の注文については詐欺罪(未遂罪)は成立しません。
2.お金を払う段階について
問題は,この「知人にあってくる」と言って出て行った行為について,詐欺罪が成立するのでしょうか?
この問題では様々な議論があるところです。
本件のような事例では,お金を支払うことを免れており,2項詐欺罪が問題となります。詐欺罪は物をだまし取る場合(1項詐欺罪)と利益(サービスなど)をだまし取る2項詐欺罪がありますが,ここでは,2項詐欺が問題となります。
2項詐欺罪においても,詐欺罪の成立には5つのステップである①欺く行為②相手(被害者の方が)錯誤に陥ったこと③相手の処分行為④財物・財産上の利益の移転⑤財産上の損害の要件をクリアしないと犯罪が成立しません。本件についてあてはめてみると,Aは店主に知人と会うと嘘を言って店を出ています。
そして,店主は,そうなのかと思って外出を許していますので,①欺く行為や②錯誤はあるといえます。では,③相手の処分行為はあるのでしょうか?ここでポイントなのは,あくまで店主は外出を許しているにすぎないのです。店主には「Aに代金の支払いを免れさせてやろう」という気持ちはありません(店主は外出を許可にしたにすぎず,代金を免除してやろうとなんて思っていないのです)。
このような場合にも詐欺罪は成立するのでしょうか?先ほど記載しましたように,非常に議論があるところですが,このような場合にも詐欺罪(2項詐欺罪)が成立するとする見解も少なからずあります。
雑駁に説明します(1つの見解を示します)と,たしかに処分行為については,処分をしようという意思は必要です(ここでは,代金を免れさせてやろうという意思がないと詐欺罪の要件はクリアしないです「処分行為は処分意思にもとづくことが必要」)。
もっとも,その処分意思は緩やかなもの(緩和されたもの)でよく「黙示による支払猶予の意思で足りる」と解する見解があります。Aが仕事のことで知人に会うといって外に出たのはすでに代金支払い段階であり,店の店主としては少なくとも黙示による支払猶予の意思があったといえるとして処分行為の要件をみたすとします。そして,他の詐欺罪の要件も満たすことから詐欺罪が成立するとする結論になります。
なお,判例(昭和30年7月7日の最高裁判例)の中に,「自動車で帰宅する知人を見送ると申欺(ママ)いて被害者方の店先に立出でたまま逃走したことをもって代金支払を免れた詐欺罪の既遂と解したことは失当であるといわなければならない」というものがあります。しかし,その後の下級審裁判例の中には,類似の事案で詐欺罪の成立を認めたものもあり,現代においてもなお昭和30年の判例が貫かれるかは疑問なところもあります。現代においては,下級審裁判例のように『支払猶予意思(債務免除の意思)を絶対的に求めているとまではいえない』ように思います。
以上のことから,variationの事例では2項詐欺罪が成立すると考える余地があります。
飲食に際してその他,問題となるケースとして「つり銭詐欺」について簡単に記載したいと思います。
この問題については,つり銭が多いことにいつ気が付いたかがポイントとなります。
※様々な見解があるところですが1つの考え方として紹介いたします。
①「つり銭の受領後に売主の間違いに気づいたが黙っていた場合」
⇒遺失物等横領罪
委託信任関係に基づかず,占有している他人の物を領得しているので遺失物等横領罪が成立すると考えることができます。
②売主がつり銭を渡そうとするときに、間違いに気づいたが領得した場合
⇒不作為による1項詐欺罪が成立。
つり銭が多いことを分かったのなら,買主はそれをすぐにそれを言うべき信義則上の告知義務があるため,欺く行為があり,このような結論になると考えることができます。
③つり銭が多いことを後から気づいた。後日,お店の人から電話があり,つり銭を返すように言われた。しかし,それに対して「つり銭は多くなかったですよ」と返答した場合
⇒①と同じく,つり銭が多いことを後から気づいたのに,そのままネコババしたことについては遺失物等横領罪が成立します。次に,「つり銭は多くなかったですよ」と返答したことについては,たしかに詐欺罪などが問題となるように思えますが,不可罰的事後行為(※)として処罰されません。
※不可罰的事後行為:結果である犯罪が原因である犯罪の刑に吸収される場合をいいます。その他の例として,窃盗により取得した物をあとで壊した場合に,後の器物損壊行為(器物損壊罪)は窃盗罪の刑に吸収されます。
冒頭の事例でAは20歳未満のため,少年法が適用となります。
少年事件は、20歳未満の少年が対象です。少年事件は,原則として全ての事件が家庭裁判所に送られます。
事件が家庭裁判所に送られた後は、家庭裁判所調査官が中心となって,少年が犯した非行の内容,家庭環境や生活状況・家族関係・交友関係などを調査します。
そして,裁判所はそれらを考慮に入れた上で「少年審判」において少年に対する処分を決めます。
【裁判所の管轄について】
少年Aは羽曳野市に在住のため,仮に少年が家庭裁判所に送致されるとした場合,大阪家庭裁判所堺支部が管轄となります。
少年がどこに住んでいるかによって裁判所の管轄が変わってくるため,管轄についても注意を要します。
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2019/04/24
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